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執筆者の写真松本浩彦

2016年春・今年のインフルエンザの総括

この原稿を書いている4月末の時点で、今日一日で5人のインフルエンザ患者さんが来られました。全員B型インフルエンザです。一時ほどの流行はないにしても、まだ患者が一人もいなくなったわけではありません。5人のうち2人は、先週わたしがB型インフルエンザと診断した男の子の、お母さんと妹さんです。 真夏でもインフルエンザは発病しうるのです。思い出して下さい。2009年、神戸の高校でバレーボール部員から見つかって、日本中で大流行した新型インフルエンザのことを。あれ、ゴールデンウィークの明けた5月中旬の出来事だったんですよ。


と言うわけで、まだ収束したとは言えないのですが、現時点で今シーズンの傾向を総括してみますと、まず流行の始まりがが遅かった。2014年末は11月からA香港型が大流行しましたが、あれが例外で、本来は今シーズンのように、年が明けて3学期が始まる頃から流行が始まります。インフルエンザは子供が媒介する病気だと、私このコラムで何度も言ってます。ですが今年は2月に入ってからが本格的に流行のスタートでした。予防接種に関しても、私はいつも11月初旬と12月初旬の2回、受けて下さいと言ってます。ワクチンは早い人で4ヶ月、普通で半年しか効果が持続しません。4月や5月ともなると、もう、予防注射はしたんですけど、なんてのは意味がありません。2016年の年末も、やはり11月と12月の二回、受けて下さいね。

今シーズンの特徴として、特にB型インフルエンザは熱が出ない、出ても37度前後、という患者さんが非常に多かった気がします。このコラムでも、今年は高熱が出ない傾向にあると何度もお伝えしたのですが、世のお母さんたちは、朝のワイドショーで何度も叫ばない限り、熱がないからインフルエンザと思わなかった、と言って手遅れの状態でお子さんを連れてくることもしばしばでした。うちのような、吹けば飛ぶよなクリニックのコラムやブログなんて、ダレも見てくれてないんですよね。

インフルエンザは時間との勝負です。症状が出て早く治療すればするほど、早くそして楽に治ります。決して自己判断しないで、正しい診断スキルを持ったドクターに相談して下さい。

また今シーズンはB型が二種類、流行しました。山形株とビクトリア株だと推測されますが、実際に今年、うちのクリニックでは2週連続でB型インフルエンザに二回かかったお子さんが数名います。ちょっと可哀想でしたが、理論上は充分あり得る話です。親御さんたちは信じられないという顔をしていましたが、私が詳しく説明すると、まぁうちの子はアンラッキーだったということですね、と理解しては下さいましたけど。ただ続けてB型に二回かかった場合だと、二回目の症状は一回目の抗体が身体に残っているので軽いことが多いのです。微妙な遺伝子配列が違うだけで同じB型ですから、二回目の罹患は見逃されがちです。これも注意して頂きたい点です。

あと、これは私が声を大にしたいことなのですが、今年のインフルエンザには「イナビル」が あまり…いや、ほとんど…いや、ぜんぜん?…効かなかったみたいです。じっさい他所のクリニックでインフルエンザと診断されて治療を受けたけど全然治らなくて、と言う患者さんがたくさん来ました。普段うちに来ている患者さんでも、インフルエンザの時はそりゃもぅ、辛いわ、しんどいわで、つい近場の医療機関に行っちゃうのは仕方ありません。でも治らないから結局うちに来る。それで私が「もしかして、イナビル、吸わされたんと違う?」…当たりです。 イナビルは一回吸入するだけで良い薬ですので、非常に使いやすいし、患者さんも楽ですが、吸入薬に慣れていない人がその一回を失敗したら、どうなると思います? 効かないのか、患者さんが失敗するのか、その辺りは断言できませんが、とにかく今年は他院でイナビル使われて治らなかった尻拭いを何度させられたことか。


インフルエンザは熱が下がったら治癒、と思ってる人が意外に多いことにも驚かされたシーズンでした。インフルエンザは平熱になってから48時間は強い感染力を持ち続けています、つまり人にうつすと言うこと。だから解熱後48時間は学校に行ってはダメなんです。そしてそれからさらに24時間、つまり解熱後72時間して、ようやく身体からウイルスがいなくなります。つまり、平熱まで熱が下がってから丸まる3日間はまだインフルエンザ患者なのです。 だから熱が下がったのにまだ喉が痛いとか、咳が続くとか言ってきても、そりゃあアナタ、明日の夜まではまだ、君はインフルエンザ患者なんだもん、仕方ないよ。って、何度言ったことか、今年は特に。

以上、今シーズン、まだ患者さんは来るでしょうけど、いちおう振り返ってみて今年のインフルエンザの総括をしてみました。来シーズンと言っても、もう今年の年末ですが、予防接種は遅めに二回、これは憶えておいて下さいね、皆さん。



追記: ~追悼・史上最高のロック・キーボード・プレイヤー~ 「オレはリック・ウェイクマンの方が上手いと思う」と言うと、その友達はボクを鼻でせせら笑った。14の夏だった。小遣い貯めてバカ高いスコアを買い、バンド作ってコピーし、ジャズ学校に通い、勉強もせずそんなことばかりしているうちに、どちらも甲乙つけ難い宇宙人的な天才だと思い知らされるのだが、もう少し歳を取ると、あの14の夏、ヤツがボクを鼻で笑った理由が解るようになった。後にヤツはバークレーを首席で卒業し、世界的に有名なジャズ・ピアニストになるのだが、14のあの時ヤツはもう解っていたのだ、彼の狂気的なスゴさを。 今年に入って、ボクは何を思ったか、突然ネットで彼の演奏する動画を集め始めた。何故だか判らなかった。が、観れば観るほどスゴイと思った。レコードで聴いた時は多重録音だと思っていたフレーズを彼は左右の手で同時に弾いていた。40年ぶりに知る衝撃だった。その曲がオーケストレイトされて、数年前の大河ドラマで流れたことも初めて知った。 3月12日にカミさんと飯を食いながら、さいきん突然むかし好きだったミュージシャンの動画あつめて観てるけどやっぱスゴいわ、真似しようと思ったら指が攣った、と笑った。その夜、彼の訃報がインターネットを駆け巡った。偶然とは思わなかった。彼の魂が小さなカケラになって世界中に飛び散って、元キーボード小僧や、元エレクトーン少女のハートに突き刺さっただけなんだ。キース・エマーソン(Keith Emerson)至高のロック・キーボード・プレイヤー、2016年3月11日サンタモニカの自宅で死亡、享年71歳。合掌。 平成28年4月25日 松本浩彦

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